プロフィール
Jasper Green
前田 一輝
Kazuki Maeda
1987年生まれ。中津川市の坂下地区に生まれ、地元の豊かな自然が好きで、山野草に興味を持ったことから薬学の大学に進学。その後アメリカ・オーストラリアへの留学や薬剤師の仕事を経て、ハーブ専門店を中津川市に開業。
薬剤師である前田さんが営む店では世界中のハーブがそろい、淹れ方、詳しいハーブの使い方などについてもアドバイスしてもらえる。前田さんがいかにしてハーブと出会ったのか、その魅力や思い、それにまつわる様々な体験を伺った。
薬剤師の資格を持った方がハーブのお店をオープンするってとても面白いな、と思ったのですが、いつからハーブの魅力に惹かれたのですか。
僕は坂下地区の椛の湖(はなのこ)出身で、子供の頃から自然の中で遊んでました。その頃から植物が好きで、特に薬草に興味がありました。渋いですよね(笑)自生したセンブリを見つけて食べたり、夏休みの研究も薬草の研究をしていましたね。研究で作ったものは今も実家にきれいにとってあります。小学生の頃は調合して百草を作ろうと試したりしました。 その後、北里大学に入学して薬剤師の資格を取ったのですが、深く知るにつれ長い時間かけて薬をつくるより自分には他にやりたい事があるのではないかとか、世の中こんなに薬はいらないんじゃないかと思い始めてしまって…。例えば心の病気も、薬は有効かもしれないけど、根本的に治すには薬以外に必要な事があるのではないかとか…。もちろん絶対必要な薬はあるんですけど、減らす事が出来る薬もあるんじゃないかと思い始めました。
大学でこれからの自分について、いろいろと考えられたのですね。その後の進路もその道を進まれたのですか。
そうですね。大学に残って薬の研究をすることも考えたのですが、もっと薬草を勉強したくて、卒業してすぐアメリカに行きました。海外って言ったらアメリカだろ、と思って(笑)アメリカの薬剤師業界は日本の三十年先を進んでるといわれてたので、それを見てみようと。

小学生頃の研究を今でも大事に
最初は英語がまったく話せなくて大変でしたが、自由な時間がたくさんあるので、その間に薬やハーブにまつわる事を調べていました。アメリカは先生とおしゃべりして親しくなると、授業に入れてくれたりもするんです(笑)授業はもちろん英語なのですが、ずっと通ってると何となくわかってくるし、半分分かれば十分だなと。結局一年半アメリカに行ってましたね。その後はオーストラリアへ行きました。
僕は動物も好きで人生で一度は動物園で働きたいという夢を持っていたんですが、幸い働くことができました。オーストラリアも日本より自由で、働きたいの?いいよいいよ!って感じでした(笑)コアラやカンガルーの世話をしたりして楽しかったです。動物園で手伝いながら、コアラの食べるユーカリなどのハーブにも触れ、植物療法の考え方が国によって違うことも知りました。中国の中医学、インドのアーユルヴェーダ、各国のハーブや民間療法など、地域は違えどそれぞれの地域で植物が治療に使われているのを見て、やっぱり植物だ!と思いました。
その結論に至ったのは、海外に行って大きな収穫だったのですね。そのあとオーストラリアから帰ってきてどのような進路を歩んだのですか。
帰国した後、あえて一回ゼロにして、ボロボロの生活をしようと思いましたね。そして、日本の現状をもう一回見えたらいいなと。
お金がないので東京のシェアハウスでミニマムな生活をしながら、薬剤師として薬局で働きました。そんな中で色々な地域の薬局や数十の店舗で働く機会を貰い、やっぱり薬出しすぎだなとか、これでは国のお金に頼りすぎだなとか、色々な事が改めてわかりましたね。
そして、好きなのはやっぱり植物と医療なので、やりたいことをやろうと思いました。やりたいことやる前に経営や世の中の流れを知りたいと思ったので、ハーブや漢方の栽培事業などにも関わって見た時期もあります。そうしていると、実は自分が当たり前だと思っていた、ハーブや薬草は日本にはまだ浸透していないんじゃないかと思うようになりました。

薬草の話を楽しそうにしている前田さん
その経験があって、ハーブの生産をするより販売に回って多くの人にハーブを知って欲しいと感じるように自然に変化していきましたね。
場所は植物が好きだったころに立ち返れる中津川から始められたらいいなと。お店は手作りで作ったのですが、結構気に入ってます。お店から見える平屋のきれいな屋根の美しい風景が見られるのもいいですよね。今にして思うと、結構遠回りしたかなって思いますね。でも学ぶ事の多い、楽しい回り道だったと思います。
大学に行ってるときは四十歳になったときに何をしているんだろうと自分の将来が不確定でした。学んだことを自分で納得がいく職業に活かせるのか、薬にまつわる様々な職業を考えたのですが果たしてあの職につきたいか、面白いのか、と疑問に思うことが多かったんですよ。でも海外での色々な出来事や東京でのミニマムな生活を経験して、どこでも生きていけるし、何でもできると思うようになりましたね。

多種多様なハーブ
その経験があってスタートしたお店なんですね。一年ちょっとたちましたが、これからしたいことはなんですか。
この一年がめちゃくちゃ長くて。最近時間が短く感じてきたので、ルーティンにならないように、慣れがでないように、新しいことしたいです。
ハーブをツールとしてもっとたくさんの人とつながる術がほしいので新しい媒体を増やして人を繋げていきたい。あとビジネス的にどうかわからないけど、薬がなくても体や気持ちが楽になる方法とか、医療保険を使わなくても自分で健康を守れる方法を伝えたい。
日本だと、具合が悪いときは病院と薬局に行かなきゃいけないという流れができてしまっているんですよね。病院に行く前にちょっと相談できるところになれたらうれしいです。
それとハーブティー自体をかわいくおしゃれに伝えたい。お客様に素敵でおしゃれな時間を過ごしてもらえる場所にしたいです。
気軽に体の相談ができる場所ができたら心強いと思う方も多いのではないだろうか。ハーブをツールとしてどんな繋がりができるお店になるのかこれからも楽しみにしたいと思った。